・鉄瓶の幻想

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 つい先日、例の「近所のリサイクルショップ」へ行ってきました。

 いつものごとく、特に美術品らしき物は無かったようです。が、私に値段を聞こうとオバチャンが、高級食器をいくつか取り置いていました。最近になってというわけではありませんが、リサイクルショップにこの手の食器を持ち込む方がかなり増えてきたようです。現代製のウェッジウッドやジノリ、ティファニー等々…。

 こういった商品は、引出物や贈答品に使われることもあるのでしょう。また、最近では大手スーパーでも一部の高級陶磁器が簡単に入手できるようになりました。ちょっと供給過剰気味なのか、皿でもカップでもリサイクルショップの「定番商品」となりつつあります。

 さて、店内を見回すとある物が目に留まりました。南部鉄瓶です。鉄瓶は、古美術品の中で意外と根強い人気を持つ商品の一つ。時代のある品もあれば現代製もありますし、作者・製造元で集めている鉄瓶ファンもいます。日用品としても使えますし、鉄器の好きな方が買われるケースも。古美術商の会で、刀剣をメインに扱う業者が味の良い鉄瓶に声を出している姿を何度か見たことがあります。

 話を戻して、私がショップで見た鉄瓶は、ダンボール箱に入った全く現代の物でした。しかし、大きさも手頃(急須を一回り大きくしたサイズ)で未使用品。きちんとした南部の製造元でしたし、売値は千円。「自分で使うのに良いか…」と思い買うことにしました。が、よく見ると蓋と本体の接合部に少し塗装の剥げ~剥げた部分からサビが出ているようです。鉄瓶を買う場合サビに注意しなければなりませんが、最もサビが出る部分は注ぎ口と、今書いた蓋と本体の接合部(蓋の縁と本体の口どちらも)。新品や未使用品でも、一応ここは見てから買われた方が良いでしょう。空気中の水分でサビが発生することもあるからです。

 サビはあったものの、大したことはなさそうなので買って帰ることにしました。まず、お湯を沸かしては捨てるといった作業を1、2回行い内部を綺麗にします。その後、サビを落とすため手拭いで磨くことに。ナイター中継を見ながら何にも考えずひたすら擦っていましたが、こういう作業は何か「ハマる」というか、手が止まらなくなるものですねぇ。ツヤを出すため、木彫の大黒様や布袋様を毎日撫でたり乾拭きしているという方の話を聞くことがありますが、何だかそういった方の気分がわかるような気がしました。木彫製品などを手で擦って、全体を馴染ませている方も多いと思います。同様に、鉄器の場合も手油が付くことで「サビにくくなる」という利点があるのです。サビは水分(湿気)が原因となりますが、油がそれを防いでくれるわけです。

 しばらく鉄瓶を磨いているうちに、ふと「この鉄瓶、このまま手入れしながら使い続けたら、私の手を離れた未来に味の良い鉄瓶として売買されてるのかな…」といった考えが浮かんできました。ナイター中継を見ながらせっせと乾拭きしていた安い鉄瓶が、百年経ってそんな話は知る由もない誰かの手に渡ってまだ使われているかもしれない…。考えてみれば、今まで大して気にも留めなかった伊万里にしても印判皿にしても、ドラマにならないようなドラマ、エピソードにならないようなエピソードをたくさん経て現在に至っているのでしょう。そんなことを考えながら部屋に置いてある何の変哲もない伊万里の鉢を見たとき、その器を使って食事をしていた人、それを取り囲んでいた風景が見えてくるような気がしました。

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