・才能ある作家 その2

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 前回の続きです。私はその若い画家から作品を買うことにしました。

 一緒にいたコレクターは大きな作品を買っていましたが、私は小さなキャンバス作品を買うことに。「これ下さい」「スミマセン、売れてしまいました…」。なんと、既に多くの作品が売れているというのです。開場前に関係者が買っているというのもあるでしょうが、まだイベント開始直後。いくら作品が良い・手頃な価格だからとは言え、現状で無名の作家にこれほど需要があるとは思ってもみませんでした(その後、何度かこの作家から作品を買う機会がありましたが、第1希望は売れていて買えないことが多いのです…)。

 仕方なく次に気に入った絵を買おうとすると、まだ残っているとの話。お金を払いながら「まだ売れていない作品はどれですか?」と聞くと、キャンバスでは同じサイズ・価格のもう1点のみということでした。ついでと言っては何ですが、私はその絵も買うことしたのです。イベント開始早々、その作家の商品で残っているのはペラペラの紙に描いた500円のドローイング作品だけになってしまいました。

 しばらくその作家と話していましたが、開場から時間が経って人も増えてきたようです。まだ会場内をほとんど見ていなかった私は、急いで他のブースも周ることにしました。売られているのは若手作家の作品で骨董市とは違いますが、小さなブースがたくさんあって品物を売っている~良い品・手頃な品から売れていくのは同じこと。それを買って商売するわけではないものの、良品を買いたいなら早く見るに越したことはありません。 

 骨董市と違ってオリジナル作品が売られているだけに、商品や価格設定はバラエティに富んでいました。高額作品や10円の作品、パフォーマンスする人や、その行為自体を売っている人、本格的な油彩からヘタウマ(ヘタヘタ?)漫画的な作品まで、何が出てくるかわらない楽しさがあります。そんな中、混雑し始めた通路を歩いていると、先程の作家と同じ歳くらいの若い女性2人が出展ブースから声を掛けてきました。「あのー…、いかがでしょうかぁ…?」。何とも懇願するような、泣きそうな表情です。その2人とも作家なのか、どちらか1人がそうなのかはわかりません。が、目の前をたくさんの人が通っているわりにそのブースで足を止める人がおらず、かなり焦っているように見えました。恐らく、先程の画家と違って全く売り上げがないのでしょう。

 まだお昼頃で焦るには早い時間帯なのですが、私にはこの気持ちが少しわかります。私は以前、たまに骨董ショーや露店の骨董市へ出ていました。そういった所で開始後1時間・2時間売れないと「品揃えが悪いのだろうか?」とか、「価格設定がおかしいのだろうか?」と焦ってくるのです。「当日の売り上げ」という具体的なこともさることながら、自分のセンス(品物のチョイス)や価格設定がズレていると考える方が怖いことでした。それでも私の心配は、「当日の売り上げ」や「品揃え」「古物の価格設定」という仕事上の問題に対して向けられるものです。自分が直接作り上げた作品に全く目を向けてもらえないアーティストの焦りは、その比でないのでしょう。現実というのは残酷なもの。何気なくブースの前を通り過ぎる一人一人が、出展者を苦しませることもあるのかもしれません。仕方のないことではあるのですが…。

 しかし、ほとんどの人と同様、私もそのブースに足を止めることはありませんでした。
※その3に続きます 

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