・幻のオークション

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 ずいぶん以前、ある小さなオークションにテレビ取材が入ったことがあります。

 そのオークションは、私が古美術商の仕事を始めた頃お世話になったところなのですが、組織が小さいこともあって関係者とは懇意にさせてもらっていました。安物・少数の出品でも快く受けてくれましたし、何より商売上の付き合いとは思えない家庭的な雰囲気があったのです。組織は脆弱だったものの大手美術オークションが誕生する少し前から運営されていて、日本初ではないでしょうが一般参加型オークションとしては草分け的存在とも言えたでしょうか?

 ある日、このオークションへ行くとテレビ取材が入るという話で盛り上っていました。「オークション」とは言っても、会場は非常に狭く(汚く)、言葉の響きから想像できるようなシャレた感じは微塵もありません。ただ、そんなところでも取材がくるほど、当時は一般参加型の美術系オークションが珍しかったのです。思い起こせば、私がここを知ったのもある一般情報雑誌を通してでした。今、この程度の規模でオークションを開催したところで、話題にもならないでしょう。

 まあ、テレビ取材自体は珍しい話でもありません。しかし、話の続きを聞いてちょっと驚きました。何と、レポーターであるタレントや取材スケジュールの都合でオークション開催日には撮影できず、開催日でもなんでもない日~つまり、撮影班のスケジュールに合わせた別の日に競りを再現してくれということらしいのです。

 困ったのはオークョンサイドですが、テレビ放映となれば宣伝効果大。先程も書いた通りこのオークションは小規模ですし、関係者に声を掛ければ客席など簡単に埋まります。結局、ただ撮影のためだけに架空の競りが行われることとなりました。

 私にも「サクラ出演」の声は掛かったのですが、狭いだけに客席にいれば顔が写ってしまいます。私はカメラに映りたくない方ですし、結局断りました(私、映りたくないのですがテレビに3、4回は映ってるんです…。悪い意味じゃないですよ 笑)。とは言え、当日の放映はちょっと楽しみ。売りに出されてもいない品を、しかも顔見知りの関係者がそれらしく競っているのは、ある意味「間抜けな光景」です。放映日、番組を見たのですが…。

 客席にいたのは、お付き合いで座っている美術商や顔なじみの関係者ばかりでした。オークション開催日でも何でもない平日の昼間、事務所に置いてあったと思われる飾り物や売れ残りの美術品が、次々と架空の競りへと掛けられています。テレビ局とすれば、お茶の間の皆さんに雰囲気が伝われば用は足りるということなのでしょう。まさに幻の競り、幻のオークション…。事情を知っているせいもありますが、やる気なくパドル(競りの札)を出す知り合いの業者や、「私も何か買ってみましょう」などとしらじらしくレポートする芸能人が、何だかコントをやっているように見えました。

 この再現を「演出」ととるか? 「ヤラセ」ととるか? それは見解が分かれるかもしれません。ただ、良し悪しは別の議論として、これを問題にしてしまっては、バラエティ番組はおろかドキュメント、報道番組すら成り立たなくなってしまうのでしょう。

 テレビ放映もむなしく、それほど長続きしなかったこの小さなオークション(組織自体、大してやる気はなかったようですが)。ただ、私にはこういった小規模でフレンドリーなオークションが、何だかとても懐かしく感じられます。しかし、オークションは消えたといっても、この話をあまり詳しく書けないのが残念。ずいぶん以前の話とは言え、何と番組自体は今でも続いているのです…。 

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コメント

う〜ん。
テレビの良い所、悪い所が見えます。

 コメント有難うございます。

 そうですね、仕方ないと言えばそうなのでしょうが…。 こういった手法は、取材~撮影において日常的に使われているようです。

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