・目利き貧乏 その2

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 前回の続きです。この古美術商の扱う品には、ポチポチ「アウト」が混ざっていると書きましたが、それに加えて「キズモノ」も多く、直してあるわけでもないのにどういうわけかキズが見付けづらいのです。買いやすい価格の品を出すため、この仕事を始めた頃から近年まで私は結構な回数品物を買っているのですが、現代製の陶器で何度かキズ物を掴まされてしまいました…。

 勿論、これは目の甘さが原因であり、古美術商であればそういう品を買った側に責任はあります。が、私はどちらかというとキズをよく見つける方で(直しているものも)、ベテラン業者に「○○君、ちょっと見て」とよく頼まれたりしていました。

 交換会ですから極めて短時間の内に品物を見なければならないとは言え、なぜかキズが見えない…。もしかしたら、顔が広く話も上手いこの業者のこと。作家や窯元などから出た「ワケあり品」みたいな品を安く仕入れては売っているのかもしれません。この話で書いているキズとは、それくらい微妙なものばかりなのです。結局、商品自体も買値も安いため、相手に説明して損なく売れるケースがほとんどではあるのですが…。

 と、いろいろ書きましたが、この方のどこが「目利き貧乏」なのでしょうか? それは、「その1」で書いた溢れるほどの知識と、非常に目敏く儲ける感覚がそう感じさせているように思えるのです。

 例えば、この古美術商が得意な「書」。自分の知っている書家や僧侶の書が2000円なり3000円、あるいは山でこの価格なら思わず手が出てしまうでしょう。しかし、これを売るとして相手にも知識がない場合がほとんど。勿論、日本全国の市を飛び回っているこの方のことですから、作家の地元で品を売ったり関係者に直接売り込むということをしているのかもしれません。「元高(もとだか)」という言葉がある通り、郷土の作家や名産品はその地元が最も高く評価します。

 と同時に、やっぱり「誰も知らない品」として結局安く落とされてしまったり、一山にされてしまうことも多いはず。買値が安いので利益は出ていることと思いますが、経費や手間をよくよく考えればかなり「遠回り」な商売かもしれません。

 ただ、ここで書きたいのは「目が利くばかりに、細かい物に手を出して儲からない」とか、「商売が非効率的」ということではありません。実際、この方は長年これで利益を出しているわけですし、商売にはその人その人のスタイルというものが存在します。が、ある程度のベテランになって「もう少し良い品を扱えばいいのになぁ…」と思われるのは、失礼を承知で書かせてもらえれば利益を出しながら損をしている面があるように思えるのです。「あー、あの人の出す(買う)品だから安物だな」とか「あの人の品はキズモノだよ」と感じられては、長い目で見て売買が不利になるでしょう。ここで書いた目利き貧乏の「貧乏」とは、実際の儲け云々というより「古美術商としての価値」に対するキーワードだったのです。

 まあ、こんな風に考えるのは、まだ私が美術商として若い(甘い)からかもしれません。「安物だろうが何だろうが、コツコツ扱って稼げ」と言われそうですが…。さて、次の方に登場していただきましょう。
※その3に続きます

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