・続 競りの妙 その2

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 前回の続きです。この茶碗の競りが始まりました。「ロット○○ 7万5千円、7万5千円…」。

 ずいぶん以前はもっと高い価格で取引されていたのですが、陶器というのは全般的に相場が下がったまま回復していません。また、前回の記事で書いた通り、この作家はちょっと異色というか好き嫌いの分かれる作風を持っています。他に出品されている物が比較的正統派の茶道具や古美術品だったため、会場内にこの茶碗を買おうという紳士やご夫人はいないように見受けられました。

 勿論、私も買うつもりはありません。悪くない価格とは言え、手数料を加えて買えば私が売りたい価格かそれ以上になってしまいます。テンポ良い競りが続いていたオークション会場も、この茶碗1つのせいで静まり返ってしまいました。するとオークショニアから「うーん、では下から初めましょうか? 6万円、6万円…」と切り出してきたのです。

 成り行き品(いくらでもよい品)が下から始まるのは当然として、競りというのは多くの場合で最低落札価格(事前に入札があればその最高価格)か、勢いをつけるためさらにその下からスタートします。しかし、スタート価格が下がってしまう…。これは、落札してもよい最低価格より上からスタートしたことを意味します。実を言えばそれほど珍しいことではないのですが、今回はオークショニアの「小さな作戦ミス」があったのではないかと感じました。

 オークショニアというのは、その人自体が出品物の受付や査定をしている場合もありますし、そもそもが美術商という場合もあります。そうでなくとも、職業柄美術品やその相場には詳しいのは当然でしょう。そういう方なら、この作家の存在に加え商的な傾向や相場を知っているはず。「おっ、安いな?」「買ってみるか…」とばかり、千円スタートでも誰かは手を挙げ相場に落ち着く普通の品と違い、異色作家によるこの茶碗は欲しい人が少ない~それでも1人いれば多少高くても買う可能性はあります。競ってくれるのが理想とはいえ、1人しかいなくてもスタート価格を高くしたのですからパドルが挙がれば「成功」。数少ない存在ながらも「この品を買う人が会場に1人はいる」と考え、言わば「一本釣り」感覚でリザーブより高めのスタートにしたのでしょう。

 文字にすると長いですが、私の推測が正しいとしてもこれはオークショニアによる瞬時の判断。しかも数百点出品されている中の、大して高くない茶碗1点の話です。が、オークショニアもプロ。上手く行くかどうかはともかく、1点1点「少しでも高く売ろう」という機転や気構えがなければ良いオークショニアと言えません。

 しかし、それでもこの茶碗には声が掛からなかったのです。
※その3に続きます

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