・透明人間と競り合う

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 古美術品や絵画などを扱う一般参加型オークション会場でよくする経験です。

 私は、会場に入るとパドルをもらい着席しました(パドル=客の整理番号が書かれた札。オークショニアにこれを示して、競りに参加します)。目当ての美術品はありますが、購入予定はなくとも状況を見て「安い」と思えば、つい競りに参加してしまうもの。しかし、「安く買えた」と思ったところでなぜか上に乗られることも多いのです…。

 これにはいくつか原因があります。タイミング的に誰か入札者が出てくれないと競りが発生しなかったり、価格が安すぎて「この値段で落ちるわけない」という気持ちから、参加者が一瞬競るのを躊躇するなどの理由です。オークションでは、ある程度状況を見る~最後の一撃で競り落とすということも作戦の一つなのですが、なぜか声が出ずに失敗することもよくあります(思っていたよりも安く他者に落ちてしまった、競りが成立せず流れた、雰囲気として声を出しづらかった、等)。

 オークション会場の話に戻ります。私は、「安い」と思って競り落としたいくつかの美術品で「競った相手」がいないことに気付いていました。つまり透明人間と競っていたのです。この場合考えられるのは、当日会場に来られない方が事前に書面で入札した~その方と競っている場合か、オークショニアが会社の利益を上げるため故意に値段を吊り上げている場合です。

 しかし、当日も含めほとんどの一般参加型オークションでは事前に入札がある場合、代理人(オークション社員)が参加者に見える形でパドルを持ち正式に参加しています。 こういうルールがある以上、ある程度の裁量権があるとはいえオークショニアが勝手に競りへ参加する、あるいは落札価格を故意に吊り上げるのは納得できないところです。私は会場の一番後ろに回り、試しに誰も挙げない安い商品にパドルを挙げました。するとすかさず競りが発生。見回しても、場内でパドルを挙げているのは私1人。オークショニアが「1万円、1万2千円」と競りながら指差す先にいたのは、私と客席のどこかにいる透明人間の2人だけです…。

 オークション会社のオークショニアというのは、かなり専門的な仕事です。1人しかパドル挙げていなくても競りが発生しているように値段を吊り上げ、複数挙げていれば1人1人に値段を示す動作をしつつ、パドルを下げさせる前に凄い勢いで値段を上げる…(失敗して吊り上げて過ぎてしまい、競っている人が一勢にパドルを降ろす~もう一度やり直すという光景もしばしば目にされます 笑)。ただ、競りの参加者が複数いる場合はともかく、1人しか参加していないのに競りを発生させるのは不正行為に思えるところ。勿論、私もそうは思っているのですが…。

 私も商売をしている人間ですから金銭にはシビアですが、うまいオークショニアにかかるとそれほど悪い気分にならないのが不思議です。多少吊り上げられたとしても「誰も参加してないじゃないの?」などと抗議せず、こちらも承知の上で黙っています(稀に抗議している人もいますが)。最終的な値段の判断をしているのは自分ですし、実際、通常の二次流通価格より安く買っている場合が多いからです。

 当然、少しでも安く買えるに越したことはありませんが、そこは「魚心あれば水心」。互いに納得できる範囲でうまくオークショニアと関係を持っておくのが「コツ」だと思うのです。一般参加型のオークション会社は、定期的にオークションを開催していますし、オークション中に商品を落札すればオークショニアは顔を覚えているでしょう。顔を売り、馴染みになっておくことで下見の際に情報を聞いたり、落札されなかった品で興味のあるものは終了後交渉できたりします。また、オークション中、ごく稀に有利に運んでくれる場合もあるように思うのです。顔なじみ(つまりお得意様)まで、多くの場面で不利にできないからでしょう。 

 オークションにはもう一方の客として「出品者」もいますし、ある程度の「吊り上げ」自体、積極的に肯定はしませんがもしかしたら「必要悪」なのかもしれません。しかし、オークションをもっと開かれたものにするには、例え吊り上げ入札でも関係者がきちんとパドルを表示する等の行為をした方が良いでしょう。誰もパドルを挙げていない客席を一瞬指差してどんどん値を上げるより、代理人であっても来場者に競り相手を確認させる方が、まだ安心して競りに参加できるというものです。

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