・価格表示に要注意 その3

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 私の親友で某大手建築会社に勤めている人がいます。その友人との会話で、あるテレビ番組が話題になりました。

 近年、家の「リフォーム」に関する番組が好評です。私もたまに見ているので友人とその手の番組について話をしたところ、「リフォームというよりほとんど建て替え。細部まで手の込んだ高機能住宅が、あんな低予算でできるわけがない」と話していました。その友人は建築会社のリフォーム部門を担当しているのですが、テレビの影響力は非常に大きく、顧客との話し合いでも番組を引き合いに出され困っているのだそうです。美術品に関する番組では評価額を大きく見せることが一種の「演出」となる場合がありますが、リフォーム等の番組では価格を小さく見せる~「この予算でできました」というのが演出なのでしょう。バラエティ番組には少なからずこういった演出があるとわかってはいるものの、いずれにしてもその業界にいなければ「不自然な点」に気付きにくいものです。

 バラエティ番組でなくとも、メディアで自分の仕事に関わる記事やニュース等を見た際、違和感を持った経験のある方は意外と多いことでしょう。私も、美術・骨董を扱うオークションや売買に関する記事、報道等で、首を傾げたくなるものを数多く見ました(最近、ますます増えている気がします)。記者や編集の責任者にしても、「あるごく狭いところ」のみ担当している訳ではありませんから仕方ないのでしょうが、複数の関係者に取材する等の努力をしなければ、悪意がなくとも間違った情報を伝えてしまう可能性が出てしまいます。

 そういった話とは少し違うかもしれませんが、近年大きく取り上げられた話題として「1万円の絵がゴッホ」というのがありました。覚えている方も多いでしょう。あるオークションに作者不詳の古い油絵が出ていて10000~20000というエスティメートが付けられていました。しかし、これがゴッホの作だったのです。それでマスコミは「1万円の絵がゴッホ」と騒いだわけですが、これこそ「踊らされた」というものでしょう。

 もしこの絵を誰かが本当に1万円で買って(あるいは落札して)、調べた結果がゴッホならニュースになるのはわかります。しかし、この絵はマスコミの「宣伝効果」のお陰で、最終的には本来の美術相場を遥かに超える高額で落札されました。誰も1万円でゴッホなど手にしていないのです。エスティメートが10000~20000でも、それはその時点で「作者不詳の成り行き品」というのを示しているだけのこと(※エスティメートについては、前回の記事でどういうものかお分かりいただけたと思います。表面上は「予想落札価格」でも、必ずしもオークション会社が10000~20000で落札される品と思って付けているわけではありません)。 

 例え最終的に作者不詳のエスティメート10000~20000で出品されたとしても、当然こんな値段では落ちなかったことでしょう。オークション側としても、作品がゴッホらしいと考えなければ調査などしません。オークション開始前に鑑定結果が出ていたことから当然前もって鑑定に出していたのでしょうが、もし正確なエスティメートを表示しようと考えたなら鑑定結果が出てから「ゴッホ作」として出品したはず。この「1万円の絵がゴッホ」という騒ぎは、オークション会社があくまで便宜上付けていた「数字としては全く目安とならないエスティメート」を、マスコミ等が真に受けてしまった(あるいは、真に受けてみた)結果起こった話だと言えるかもしれません。ともかく、話題になってオークション会社とすれば「大成功」。通常のオークションでも会場内が混雑することはありますが、当日は美術品のオークションで見たことがない「長蛇の列」が会場前に出来ていました。

 何かトリックを使ったようにも思えますが、別に悪いことではありません。オークション側としても良い宣伝ですし、ゴッホ作とは言え上から加筆されて価値の下がった作品に、「話題性」という別の価値も加わりました。美術的な価値が付加されたかどうかはともかく、「あー、これが1万円の絵がゴッホだったって絵ね~」というエピソードが加われば、それはそれで「別の価値」が付いたということなのでしょう。
※この記事のその4は、『裏美術売買』に掲載します。

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