・ニセモノか、リメイクか? その1

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 内容は違いますが、前々回掲載した「常識でわかるニセモノ」を書いている途中に思い出した話です。

 ずいぶん以前、ある古美術商の交換会に時代の「箪笥」が出ていました。私は扱いませんが、時代箪笥というのは非常に人気のある商品です。既に会場へ置かれていたその箪笥には、多くの業者が下見のため集まっていました。

 競りが始まるまで時間もありますし私も間近で見たのですが、その箪笥は一見して時代ある良い品に見えました。特に私が見ていたのは金具です。箪笥そのものは専門外なのですが、当時私は刀の小道具(鐔とか小柄とか)が好きで、多少は鉄の細工物を見られるようになっていました。物こそ違いますが、箪笥に付けられた金具は間違いなく時代のある物にしか見えません。更に、使われている木材もある程度の古さを感じさせていました。商品としてこの時代箪笥を仕入れようとは思いませんでしたが、物としては良品~お金があったら自分用に買っても良いなと思っていたのです。

 下見を終えて座布団に座っていると、顔見知りの年配古美術商が私に話しかけてきました。仮にAさんとしましょう。 A:「○○君、あの箪笥どう思う?」私:「う~ん、専門外なんでわかりませんが、金具もちゃんとしてるし古くて良さそうな箪笥ですねぇ…」。しかし、答えは意外なものでした。「○○君、ありゃ今作ったもんだよ」。

 まさかと思いました。いくら専門外とは言え、どう見ても時代ある物にしか見えなかったからです。金具も木材も、こんなに味良く時代付けして作れるものなのか…。しかし、その古美術商は更に意外な事を口にしました。「うん、ありゃ壊れた古い箪笥をいくつか組み合わせて、今組み立てたやつだ」。なるほど、それなら考えられます。鉄も古いし木も古い。元が古いのだから部分部分で見れば古いのは当然です。それでも寄せ集めの違和感など全くなく、私にはその箪笥が立派な物に見えていました。説明を聞いて初めて、引き出しの接合部分に新しく切断~接合した感じが「言われてみれば」わかる程度です。Aさん曰く、「いくら古い材料を作っていても、寄せ集めの今出来。元の姿は完全に損なわれているし、あんなニセモノを買っちゃダメだねぇ…」。

 競りはまだ始まっていませんでした。挨拶したり雑談したりする人、下見する人、お茶を飲む人とそれぞれ。私は座布団に座ったままでしたが、今度は遅れて来た別のベテラン古美術商が私に話しかけてきました。Bさんとしましょう。B:「○○君、あの箪笥どう思う?」。

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うーん、さっきと同じ質問です。先に質問したAさんは会場の別の場所に移動していて私とBさんのやり取りに気付いていないようですが、同じ質問をされるというのは少々バツの悪いもの。「○○君、あれは古い箪笥を組み合わせて今作ったものだよ」。案の定、同じ答えです。しかし、相手も私に教えてくれようとしているのでしょう。先程別の人に聞きましたとも言えず「そうなんですか~」などと相槌を打っていました。それと同時に、古い材料を使って組み立てた物でもオリジナルかどうかすぐにわかるベテラン古美術商の眼に感心したものです。この世界に入ってそれほど時間の経っていなかった当時の私には違和感のない物に見えたのですが、何度も扱っている人には一見してどこか不自然な点があったのでしょう。もしくは、私が何か重大な見落としをしていたのかもしれません。その鑑定ポイントを聞いておかなかったのが今でも悔やまれるのですが…。
 
 話を戻して、私はAさんとBさんの同じ質問に勉強させてもらいつつも、全く同じやりとりに何となく気まずさみたいなものを感じていました。しかし、続いて出てきたBさんの言葉は全く予想外のものだったのです。

・写真は船箪笥~本文とは関係ありません  ※その2に続きます

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