・2004年の美術売買

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 私はそれほど大きな売買をしている美術商でもないのですが、今年の傾向を簡単に振り返ってみたいと思います。

 現代美術では、村上隆氏・奈良美智氏など人気現代作家の名が「一般レベル」にまで知れ渡りました。これは凄いことです。例えば、「人間国宝」と聞くと凄いと思えるかもしれませんが、いざその名前を聞かれるとほとんどの方は答えられないでしょう。日本において、アーティストというのはごく一部にしか知られない存在なのです。テレビやラジオで接する機会の多い歌手や芸能人ならともかく、絵画系アーティストの名が一般に知れ渡るのは稀なことかもしれません。アートに興味がない私の母親でさえ「村上隆? あ~漫画みたいな絵を描く人ね~」と、言っていることが当っているかどうかはともかく、その名を知っているほどです。

 日本ではなく、海外からその活動や評価が伝わってくるのが少し悔しいというか残念ではありますが、現代美術界のトップを走るスーパースターが日本人というのは喜ばしいことであると思っています。また、最近はさらに下の世代である若手アーティストに世界的な注目が集まってきました。村上氏や奈良氏に続くアーティストが次々と出現しており、戦前・戦後の抽象系現代美術はますます(金銭的)評価が難しくなってくるかもしません。

 骨董の方ですが、中途半端な物は全く売れずに、名品・もしくは極端に安い物しか売れなくなってきたように思えます(骨董に限らず、コンテンポラリーや他の絵画でもそうですが…)。名品が出現すれば高額でも売れますし、また価値的に50万くらいの物でも物として良品や珍品なら比較的簡単に売ることができます。逆に、有名作家の物でもよくある品とか、イマひとつの作とか、そういう品は非常に売りづらくなってきました。これは作品でも作家でもそうで、名前や評価はそこそこ大きいものの2次販売で全く売れないという作家も以前より多く見かけます。言い方は悪いですが、作品も作者も中途半端なポジションだとダメということなのでしょう。これは、爆発的に増えたネットオークションの取引にも一因が有ると思います。骨董好きなら名前は知っているであろう作家の作品が、3000円~5000円程度で際限なく登場(勿論、贋作というわけではありません)。しかも、数千円の価格ですら不落札になっていたりします。

 作品にしても作者にしても星の数ほど存在しますが、この価格を見ると作品の数が既に飽和状態となっているのかもしれません。また、溢れかえるほど存在する美術・骨董品や「現実の取引価格」が、ネットを通じて一般の骨董ファンに知られ始めたのも大きいと思います。それを逆手に取って、私の知り合いである古美術商が中堅作家の作でも良品を選び格安で購入~貯め込んでいますが、面白いやり方とは思うものの商売として成立するかどうかはわかりません。ともかく、美術・骨董品にお金を出す人は、名品や珍品を血眼になって探すマニアか、格安の品を買って美術・骨董品を気軽に楽しむ人のどちらかになってきたと言えるでしょう。

 たくさんいるアーティスト、莫大にある作品のなかで、ごく一部だけが評価される~端的に言えば高額で取引されるわけですが、来年以降ますます「勝ち組・負け組」の差が激しくなってくると思います(ここで言う「勝ち組」等の表現は、単純に2次流通価格が高いか安いかということです。作者の社会的名声や作品の発表価格とは関係ありません)。いずれにしても、買う側としては「自分の気に入った美術品を買う」という大前提を忘れずに商品を購入することが大切になってくるでしょう。

 2004年5月から当サイトを開始しましたが、ご覧いただきました方には御礼を申し上げます。毎回まわりくどい拙文で申し訳ない限りなのですが、引き続きよろしくお願い申し上げます。それでは、良いお年を。

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コメント

 明けましておめでとう御座います。美術品に関してはさっぱりですが、いつも楽しく拝見させて頂いております。

 2極化の傾向は、業種は全く違えど私の取り扱う商品でも顕著です。多少値段が張っても良い物を求める顧客と、商品のクオリティーはさておき安価な物を求める顧客。年々、この様な傾向が強くなっている様に感じます。

 世間でも「勝ち組、負け組み」などとはやされる様に、所得の格差が広がった事が原因なのかも知れませんね。

 厳しいご時世ですが、今年も宜しくお願いします。

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