・人工衛星2

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 以前「人工衛星」という話を書きましたが、今回は私と多少縁のあった人工衛星の話です。

 古美術商になってしばらくした頃でしょうか。私は、ひょんなことからある老人コレクターと知り合いになりました(後から聞いた話では、その方は専門の仕事を持ちつつも、半ば古美術商だったということですが)。しばらくその方の仕事を手伝ったりしていましたが、ある時「○○君、これをあげよう」と言って私に焼物をくれたのです。詳しくは書けませんが、それは価値ある古陶磁器が失敗して焼けたもののようでした。失敗と言っても焼きが甘かったり、別な物とくっついてしまったり、あるいは割れてしまったりといろいろあるのですが、その焼物は窯の中で変形してしまい本来の用途を果たせなくなっている物だったのです。  

 話はそれますが、西洋人と違って日本人は「不完全な物」に美を見出す場合があります。以前も書きましたが、キズをわざわざ見えるように直したり、あるいは景色と捉えたり。茶碗でも明らかに焼成の失敗でグニャリと変形してしまった物があるのですが、ちょっと傾いていたり潰れた感じになっていたりすると、かえって「愛嬌」を持って見えたりするものです。こういう物には、また別の価値があるのですが…。

 話を戻して、私がもらった失敗作は、愛嬌のある変形の仕方はしていませんでした。というよりも、原型が何かわからないくらいだったのです。ソコソコ価値ある某古陶磁ということはわかりますし、割れているわけでもなかったのですが、正直言えば骨董品として「全く面白味の無い物」でした。いただき物ではありましたが、「売って小遣いにしなよ」と渡された品でもあったので、しばらくしてから私は売ることにしたのです。かなり前に古美術商の会で売りましたが、1万円だったでしょうか? それでも、「そんなに安く売っていいの?」と落札の際言われたのは、いくらつまらない~使い道がない焼物とは言えそれが「本物」だったからでしょう。前回の記事に、人工衛星の条件として「味のある物」「玄人好みする物」と挙げましたが、この品物の唯一の価値は一応本物であるということのみでした。そして、古美術商や焼物の好きな方にはそれがわかる~かえって高く踏んでしまうのです。これは「玄人好み」ということと関連するでしょう。ともかく元がタダですし、私は何も考えずスパッと売ってしまいました。

 そんな出来事もすっかり忘れていた数年後、ある交換会で何とその焼物が出されていました。恐らく、古美術商間を行ったり来たりしていたのでしょう。私は作品をもらったままの状態(裸)で売りましたが、価値ある物と見せたかったのか箱まで付けられていました。競りでは、やはり1万弱くらいまで声がきたでしょうか? しかし、持ち主は売らずに引っ込めました。さらにそれからしばらくした後、またしてもその焼物が登場。売主は変わっていましたが、勿論全く同じ物です。前回よりも値の付かなかったその焼物は、やはり売主が売らずに引っ込めていました。

 そして最近になって、またもその焼物を見たのです。「オーナー」は、他の古美術商へ変わっていました。付いた値段は数千円程度。おなじみの人工衛星になって、もう手を上げる業者もほとんどいません。結局その方は売りませんでした。しかし、それから少し経った別の会で、同じ方がまたその焼物を出しています。そして、なぜか付けられていた箱がなくなっていました。

 結局、その焼物は3500円で落札されました。多分、至る所で何度もこの焼物を出品~思い通りに売れないため見切って売ったのでしょう。3500円でも、「いいよいいよ、はい」と諦め混じりに投げ売っていたところを見ると、始めから今回の市場で売り切ろうと決めていたのだと思います。付けられていた箱は、他の商品に転用されたのでしょう(箱というのは、作ると意外に高い~より良い商品へ使い回されるのです)。多少なりとも私に縁のある商品だったので買おうかと思ったのですが、なにぶん売れずに残ってしまう品。飾るにしても面白みがありません。迷う間もなく売り主が「いいよいいよ」と売ってしまったこともあり、若い業者へと売られていきました。

 この焼物、当の老人がコレクションしていたものだったのでしょうか? それとも、半ば古美術商だったという老人がどこかの会で買ってしまい、やはり売れずに私にくれたものだったのでしょうか? その後、音信不通になり今となってはわかりません。が、今考えると仕事をしたお駄賃という意味合いの他に、駆け出しだった私がいくらでその売れない焼物を売り切るのか、興味があったのではないかとも考えています。

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